効エネルギー日記

エネルギーの効率的利用を中心に、自分の考えを述べる。

新国立美術館

仕事の前に時間ができたので、六本木に開設された新国立美術館へ行ってみた。ちょうどモネ展を開催していたのも好都合で、関西よりも混雑度が低かったのも有難かった。黒川紀章氏の設計で、入口部分は総ガラス張りの曲線構造で優美だ。

モネ展を見終わって外へ出ようとして、以前に総ガラス張りの壁を持つ公共建物の管理者が、空調費用がべらぼうにかかると言っていたのを思い出し、ガラス構造がどうなっているかを調べてみて思わず唸った。外に向いているガラスは全部断熱効果の高い複層ガラスとなっている。いままで、公共建物の窓ガラスを調べた中で初めてのことだ。国の予算での建設だから、よほど強い方針がなければ高価になる複層ガラスは使えないのが普通だから、多分設計者の意向が働いているのだろう。しかも、夏の太陽光が室内を直射しないように半透明の庇が外面に取り付けられ、それが建物の外面デザインの重要部分にもなっている。これがあるために赤外線反射コーティングをしたガラスの必要がなく、外から見たときにギラギラする目立ち方がないのも素晴らしい。

また、ガラスの壁から入ってくる自然光が多いためだろうが、このような建物では当たり前のダウンライトが極端に少ないのにも感心した。曇り日だったが設置されているライトの半分は消えている。光量センサーを使って余計な照明は点灯しないように制御しているようだ。中心部の壁面全体が光る照明デザインで明るさを保っているのだろう。
空調はどうなっているのだろうと見回すと、建物の中心構造から突き出した天井に空気吹き出し口があるのは通常通りだが、それに加えて床から空気が吹き出すようになっている。足許空調だ。これだけ天井の高い空間を完全に空調するのは至難のことだが、複層ガラスと庇で外部からの熱侵入を防ぎながら、空調の対象である人間の足許からも温度調整された空気を吹き出して補助空調をしているのだ。このようにエネルギー損失を少なくするように配慮がなされた建物は稀だろう。空調・照明に使われるエネルギー量は、同じような構造と規模をもつ従来の同種建物と比較するとおそらく半分近くになるのではないか。そうなると当初の設備投資が高くても、通常運転経費が相対的に少ないために、長期的にトータルで見ると引き合うのではないか。

エネルギー関連ではないが、もう一つ感心したことがある。建物全体が新国立美術館となっているが、建物への入口で切符を見せる必要はないということだ。展示場へ入る時になって始めて切符を見せるようになっているために、館内には誰でも自由に入ることができる。ということは、中にあるレストランやコーヒーショップが目当てにだけ来館しても構わないわけで、飲食店事業者にとっても美術展来訪者だけに売上を依存するのではないという大きなメリットがある筈だ。いわば普通の道路が美術館内にまで延びていて、その沿道にレストランがある構造である。回廊空間にある体裁のレストランがあって、魅力的になっているから、六本木の名所になる可能性もある。国立の建物でありながらよくこのような形体を許容したものだ。ここは独立法人となっていて、収益性の見地からこのような設計を受け入れたのだろうか。美術館であること以外の要素で地域への集客効果を出すという新しい試みだと高く評価したい。美術館本体が閉まってからも、レストランが夜中まで営業しているかどうかを確認しなかったのが悔やまれる。