効エネルギー日記

エネルギーの効率的利用を中心に、自分の考えを述べる。

■トヨタ自動車がHVの特許を開放

 

 

トヨタ自動車ハイブリッド車(HV)を中心に電動車の2万件の特許を無償開放することを決めたという報道を見て、トヨタ燃料電池自動車との繋ぎ役としてHV、それもかなり大きなバッテリーを搭載した同社の方式を普及させようとしているのだと感じた。HVには2種類あって、トヨタプリウスなどで採用している「トヨタ・ハイブリッド・システム(THS)」は大型の電池、モーター、電力制御装置で構成しており、エンジンを停止した状態でも電気で走行でき、ガソリンの消費量を大幅に抑えることができる。もう一つは、最近「マイルド(簡易)型」と呼ばれるHVを製造・販売するメーカーも増え、これも環境対応として緊急避難的に採用され普及するようになっている。エンジンを主要動力源とし、小型の電池とモーターで停止時や発進時にアシストする仕組み。ただ、ディーゼルではなくガソリンエンジンディーゼル車は、欧州での虚偽の検査が見つかって、市場が急速になくなっている。

今度の特許の無償開放で多くの自動車メーカーがHVに参入すれば、基幹部品である電池やモーターなどの生産数量が増えてコスト低減が進み、普及が加速することをトヨタは狙っているとされている。燃料電池車のコストが下がらず、水素充填設備の数も増えないという現状では、HVに力を入れざるを得ないのだろう。ただHVは、カリフォルニア州などでは環境対応が不十分だとされており、販売できなくなっている。当面は欧州やインド、南米などを的としているのだろう。果たしてトヨタ自動車の狙うように市場が動くかどうか。中国の炭酸ガス排出規制、高く設定されたEV比率とも関係しているだけに、今後の動向を見る必要があるだろう。

■岩谷産業が米国の水素充填ステーション事業へ

岩谷産業が米国で燃料電池車(FCV)向け水素ステーション事業に参入するということだ。独産業ガス大手メッサー・グループがカリフォルニア州に持つ水素ステーション4カ所を買収し、日本企業で初めて運営を始めるが、数年後には20カ所程度に広げる計画。カリフォルニア州では昨年末時点でトヨタ自動車の「ミライ」を中心に約5700台のFCVが走る。自動車メーカーの促進策で水素の充填が一定額まで無料となっており、FCVが普及し始めている。トヨタは大型のFCトラックを運行する実験を実施している。同州では燃料電池で動く港湾車両の計画もある。一方、同州の水素ステーションの拠点数は40カ所ほどと日本の4割にとどまるため、ここに商機があると判断したようだ。ただ、FCVは電気自動車との競合では、電池の性能の向上と価格の低下が大きく、どこまで普及が進むかは不透明であるように思う。その意味では、バス、港湾車両の燃料電池化の方が進展するかもしれない。蓄電池では重量が大きくなりすぎるし、容量の大きい蓄電池の場合にはどうしても充電時間の長さが不利になるからだ。米国での水素ステーション事業については、日本企業では英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが運営するステーションにトヨタとホンダが資金支援しているが、自社参入としては初めて。なお、カリフォルニア州の助成を得て設置される水素ステーションは、33%に相当する水素供給量を再生可能エネルギー(風力、太陽光、バイオマス等)由来とすることが定められている。

米国での水素エネルギー開発の大きな理由の一つがエネルギーセキュリティで、石油の脱他国依存の一環としてFCVの研究開発が行われてきた。だが、シェールオイルの増産で、石油輸入依存は小さくなっているために、これからは地球温暖化対応に比重がかかるだろうが、トランプ政権はこの分野については冷ややかな態度を示している。東部の諸州でもゼロエミッション車の普及には力が入っているが、この中で燃料電池駆動のもののシェアーがどれだけになるかが課題となる。岩谷産業には事業進出に成功してほしいが、これには、日本とドイツのFCVの市場支配力に依存することになる。

 

 

■揚水発電

米国のエネルギー省が、揚水発電の新技術とコスト低減に向けた開発資金を出すようになったということを知って、日本ではどのようになっているかが気になった。というのは、九州電力太陽光発電の抑制が、土日以外の日にも頻繁に行われるようになったからだ。エネルギー消費の効率化で需要が伸びなくなっていることもあるだろう。折角の天の恵を捨ててしまわないために、その電力をどこかで使えるようにすれば良いのだが、それも限界になると、揚水発電で下の池の水を上の池に汲み上げるのに電力を消費し、需要が増えてくる、あるいは、太陽光発電量が少なくなると、その上に上げた水を落下させて水力発電させて需要に対応する。揚水発電はもともと一定発電をする原発の電力が夜には余るのを消費するためのものだったが、止まっている原発が多いために、その目的が太陽光などで発生する余剰分を吸収するのに使われている。

日本には44カ所に揚水発電設備があり、その合計出力は2,700万キロワット。全国に分布している。揚水発電は、水を汲み上げるときの電力損失が大きいために、全体としての発電コストは高くなるのが課題。それを前提として米国が新しい開発を始めたということは、長い目で見た蓄電設備としての機能を増強しようとしているのだろう。日本の揚水発電は殆どが固定ピッチの水力タービン羽根を使っているために、柔軟性が少ない。米国もここに着目して可変ピッチのタービンの新技術開発もテーマに上がっている。また、通常の水力発電設備の一部を揚水発電に改造することも課題に入っている。日本でも水路を新規に発電所にするのは無理だから、既存のものの揚水化も考える必要があるのだろう。

■新しい年号

新しい年号が令和と決まった。出典が万葉集だというのは、これまでの中国古典からのものが殆どだったのを変えたという意味では同意できる。有識者会議に始まった一連の会合をずっとテレビ番組で見ていたが、合意形成の過程を踏んだという仮想プロセスの一つだ。平成を振り返ると、その始まりの時にはロンドンに駐在していて、ベルリンの壁の崩壊の方が時代の変化を感じさせてくれた。その後、東日本大震災が招いた原発事故が、世界のエネルギー市場に与えた影響は大きい。情報化の進展も平成を特徴付けるものだろう。環境問題への取り組みが進んだのが平成だ。今回の新しい年号が時代の流れに一つの区切りを作ることになったが、どのような時代を表象するものになるだろうか。人間が次第に自分の意思で物事を制御できなくなっている中で、人間というものを中心に置いた社会を形成する時代が生まれてほしいと思う。

これから暫く、情報システムに関係するものが、年号の変更に伴うトラブルで、意外な作動をする可能性がある。特に国や自治体が年号を使っているから、今回は準備期間が長かったとは言え、その変更が原因でシステムがうまく動かないことがあるかもしれない。ボーイングの新鋭機が墜落したように、プログラムのほんの一部修正が出来ていないことを誰も気づかなかったために、公的認証が必要な書類が発行できなくなるようなことが起きるかも知れない。プログラムの修正にもプログラムが使われるから、思いもかけないところにバグがひそんでいる可能性はゼロではない。それが致命的なものでないことを願うしかない。電力、ガスの料金請求のプロセスの基本部分などは多分年号は使っていないとは思うが、消費者との接点では年号を使うことは多いと思う。その修正は全体のシステムの僅かな部分だが、変なところに飛び火しないとは言えない。個人情報の面でも、トラブルの起きるのを避けられないかも知れない。

情報化社会の負の側面だが、新しい年号の時代には、この負の側面ができるだけ深刻な問題とならないように社会全体が取り組む必要が高まると思う。デジタル情報に振り舞わされないで穏やかに過ごせる時代になってほしい。

■未稼働太陽光発電の排除

経済産業省は発電の認可を得たのに長い間、施設を稼働しない太陽光発電事業者を排除することになったらしい。これは固定価格買取制度発足時の制度設計の大きな誤りだった。発電認可を受けた時点の買取価格が、何年も稼働に入らなくても、当初の価格が維持されることになっていたために、太陽光パネルのコストが急速に下がることは確実であったことから、事業者に設置を急ぐインセンティブが働かなかったのだ。稼働したくても系統接続が出来ないために待機している事業者もあったとは思うが、それについても、送電線の空き容量を有効に使おうとする施策も進み出したので、次第に動き出すだろうが、ここでも稼働しないで放置していても損をしない仕組みだったことが大きな問題となっていた。儲け主義がはびこるとされたのも当然だろう。

国は再生エネの普及を目的に、太陽光発電などの電力を大手電力が一定価格で買い取る「固定価格買い取り制度」(FIT)を2012年に始めたが、認定を得た事業者の太陽光発電は18年9月時点で約6500万キロワット分あるが、このうち3000万キロワット分は未稼働だというから、半端な比率ではない。認定を受けた事業者は将来の発電開始に備え、送電線を使う権利を持つ。発電パネルの値下がりや権利の転売を狙って未稼働の事業者が送電枠をおさえる現状では、地域によっては新しい再エネ事業者の参入が難しくなっている。経産省は長期にわたり未稼働の太陽光は買い取り価格を下げることを2018年末に決めたが、放置される事業が増える懸念があるため、改めて撤退を促す措置をとることになったものだ。

この裏には、旧電力会社が管理する送電系統に、小さな電源が接続されるのを忌避したという側面もある。自社電源の送電を優先させたからだ。停止している発電設備の容量も加えたために、再エネに回せる枠にシワ寄せが来ていた。その解消には送電線の容量を増強するのが解決策の第一だが、そのためのコストを誰がどのように負担するかが課題となる。未稼働のママの太陽光発電の権利を取り上げるのも一つだが、いずれは容量増強をしなくてはならない、欧米のように再エネ接続を優先させる制度になっていないから、日本独自のコスト負担方式を新たに考えなくてはならない。それにあまり時間をかけられない時期に来ている。

■日本の新しいCO2削減目標

政府の有識者会議は、日本から出る温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)を今世紀後半の2070年ごろまでに「実質ゼロ」とする新たな目標案をまとめたと報じられている。これまでは、50年に8割削減する目標を示してきたが、6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議で議長国として温暖化対策の議論をリードするためには、従来の数字では通用しないからだろう。CO2を回収して資源に加工したり、温暖化ガスを出さない水素エネルギーの生産コストを1割以下に下げたりするなどで実現を目指すということだ。4月2日に開く予定の有識者会議で目標案を議論し、政府は6月にも対策と共に国連に提出する方針。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」で国連に対策の提出が必要な主要7カ国(G7)のうち、排出の実質ゼロを掲げるのは初めてという。実現性に対して疑問が出されるかも知れない。

その具体策として、CO2を回収して都市ガスの主成分であるメタンにする技術、太陽エネルギーで燃料を作る人工光合成などの開発に取り組むとあるが、メタンにするのはすぐに燃料として消費されてCO2は再度排出されるから、そのCO2を再度回収しなければならず、あまり有効な方式とは思えない。人工光合成はまだ実用的に利用できる段階にはないから、太陽光で藻類を大量に繁殖させ、それから石油代替燃料を作る方がまだやりやすいような気がする。これもまだ実用化の段階にはないが、一部実証試験も行われているはずだから、この方策を織り込む方が実現性は高いだろう。

水素の製造費を50年までに現在の1割以下にし、天然ガスより割安にして普及を促すという具体策も示されているが、これだけのコスト削減をするには、消費量を押し上げる施策も必要になる。水素製造には再生可能エネルギーからの電力を使わなければ意味がないから、再エネの運用規模も拡大する必要がある。水素を使う設備のコストを下げる必要もある。かなり絵に描いた餅的な施策のような気がする。

■燃料電池駆動の船舶

船舶からの排気についての規制が強化されるが、その対応策の一つとしてLNGを燃料にする方式が一部で実用化されている。今年の2月に大阪ガス商船三井保有するタグボートLNGを供給する設備の運用を開始したことは、この発表の頃に書いたとおりだ。これは港の中だけで走る船だから、一つの供給設備で可能なのだが、外洋船にLNGを利用しようとすると、寄港地にLNGの供給設備がなくては立ち往生する。問題は、この燃料も、現在広く使われている重油に比べると大気汚染も、二酸化炭素の排出は少ないとはいえ、規制がもっと厳しくなると対応が難しくなる

今日海外情報として入ってきた、燃料電池と蓄電池の組み合わせで大型船舶の動力にする方式は、水素を燃料とするので少なくとも船から出る排ガスには水蒸気しかなく、環境を悪化させることはない。ただ、これも水素供給設備の設置が港毎に進展しないといけないし、水素供給をどこに依存するかが問題となる。また、水素の製造に使われる原料が化石燃料であれば、温暖化を促進する方向になることは否定できない。だが、燃料電池を大型船舶の動力源になる位に開発が進んできたというのは嬉しいことだ。洋上風力発電の電力で水を電気分解する設備が各港に整備されれば、案外LNGよりも普及は早いかも知れない。水素社会の到来だと言える。