福島県内でつくった再生可能エネルギーを首都圏に送る目的で設立された福島送電(福島市)の事業の詳細が固まった。太陽光11、風力10の発電所が接続し、送電する最大出力は合計600メガワットになるということだ。総事業費は用地代を含め290億円。2020年1月に運転が始まれば県と国が進める「福島新エネルギー社会構想」が大きく前進すると報じられている。東日本大震災の復興のための中核事業のひとつとして急浮上した経緯があり、「普通なら10年かかるところを2年で完了させる」突貫工事になっている。これほどの時間短縮は、設備を設置する場所がほとんど更地に近いものだからだろう。日照に恵まれた双葉北部はメガソーラーが中心で阿武隈は主に風力が立地する。
福島送電は県の第三セクターや東京電力ホールディングスが出資して17年に発足。このほど送電事業の許可を経済産業省から受けた。送電線は太平洋岸に近い「双葉北部」と山間の「阿武隈北部・南部」があり、合計の総延長は約75キロメートル。送電線の大半を公道の下など地中に埋設するが、2017年度から段階的に着工している。これほどの距離の高圧送電線を地下埋設にできるのも、公道を走る車両の数が非常に少ないからだろう。だが、地上に送電線を作る方がコストは安いはずだから、津波が再度襲う可能性を考慮したものに違いない。
三菱総研などが建設中の浪江町のメガソーラーは原発事故で耕作ができなくなった水田を活用する。事業費は約100億円で地元は税収増や維持作業の新規雇用を期待している。風力発電も過疎化が深刻な山間部の経済を活性化する狙いがある。メガソーラーと風力を同じ送電線で送るのも珍しい。県の新エネ構想は40年度に県内の全消費量に相当するエネルギーを再生可能型で生産することを目指しているということだが、その規模になると送電系統を再エネ電源の出力変動に対応しながら需要地へ安定した送電ができるようにしなくてはならない筈だ。電力は東北電力の系統を経由せずに東京圏へ送られるからできる芸当だ。それであれば、このプロジェクトから生まれる電力の変動幅は系統を不安定にする問題となる規模ではない。この場合、生まれた電力は地元で消費されるものではなくなる。事故を起こした福島原発1と同じ構造だ。