効エネルギー日記

エネルギーの効率的利用を中心に、自分の考えを述べる。

■雪氷で作った仏塔

ヒマラヤを始めとする高地では、地球温暖化の影響を受けて氷河がどんどん消失している。それは、周辺の農地へ供給する水が必要な時になくなってしまうだけでなく、飲み水すら得られなくなる事態まで生まれている。だが、その解消策が実施に移されているという報道記事を読んで、一種の感銘を受けた。

それは雪を高く積み上げて、この記事(Times)ではStupa(仏塔)を作るというものだ。温暖化しても高山地帯の冬は零下10数度の厳寒となる。その時に雪で三角の塔を作り、さらには、高い位置にある氷河から鉄パイプで引いた水を上から散布して30メートルになるほどの三角円錐の塔にするのだ。その塔は、冬が過ぎて気温が上がっても、あるいは、太陽が当たっても、表面積が塔の体積に比べて小さいので、少しずつしか溶けない。仏塔の形を維持したまま小さくなるだけで済む。そして、仏塔が幾つかあれば、その水量は、農業用水や飲料水を賄うのに適した量になるらしい。

いまこの仏塔作りがヒマラヤだけでなく次第にインドなど他の高地氷河地帯に拡がっているという。さらには、これが観光資源にもなりつつあり、観光客向けのカフェを塔に穴を掘って作ったものが評判になっているそうだ。

地球温暖化によって、アジアの氷雪の3分の一が消失しつつあるという悲劇的な状況が生まれようとしているのだが、これによる地域の被害を少なくしようとする知恵者がこの仏塔を考えたのだが2013年で、これをクラウドファンディングで資金を調達したとのことだ。当初は12の村が参画したが、これが今年には20の村に増えており、四季を通じて水の確保が出来ることを知った村民は、さらにその数を増やそうとし、その動きがヒマラヤから離れた地域にも伝搬しているらしい。日本でも、水不足対応ではないにしろ、高地のスキーリゾートなどで観光資源作りの一つとして試みることが出来るかも知れない。

 

■エネルギー白書と環境白書2019

6月7日、経産省からのエネルギー白書2019と、環境省からの環境白書・循環型環境白書・生物多様性白書2019が閣議決定された。早速ダウンロードしたが、エネルギー白書は350ページを超え、環境省からの白書は3つが一つにまとめられていて340ページほどと膨大なものとなっている。両白書を一括ダウンロードしたが、章別にそれぞれダウンロードした方が、読みやすいかも知れない。また、概要版もそれぞれに準備されているが、全体像を把握するのは必ずしも容易ではない。

エネルギー白書は3部構成になっている。第1部はエネルギーを巡る主な状況と対策、第2部はエネルギー動向、第3部は2018(平成30)年度においてエネルギー需給に関して講じた施策の状況。

環境白書は2部構成で、第1部が総合的な施策等に関する報告、第2部が各分野の施策等に関する報告となっている。

エネルギー白書の冒頭部分は福島復興から始まっている。続いて国内外のエネルギー動向が詳細に説明され、将来に向けた施策が語られているが、読み解くのはなかなか一筋縄では行かない。環境白書は、地域循環共生圏の具体化という切り口から、気候変動影響への適応とプラスチック対策の取組に焦点を当てている。

当面は、自分の関心領域である、再生可能エネルギーと気候変動対応について読み進めることにする。

京大の安田 陽先生が、Facebookに、エネルギー白書に「需要密度」なるものが今年から唐突に出ていると指摘されているのを知り、その部分にまず目を通した。日本の再エネ比率が低いと言われていることに対し、別の切り口で見ると日本の再エネ導入も捨てたものではないと述べているのだが、どうも理解しにくいところがある。批判をかわそうとする意図があるようだ。

 

■曽爾高原のススキ

日本300名山の一つである倶留尊山(くろそやま)の麓に拡がる曽爾高原は、一面がススキに覆われた草原として知られている。秋のシーズンには多くの観光客が訪れる名所ともなっているが、もともとは民家の茅葺き屋根に使うススキを確保するための「茅場」となっていた。数日前の奈良新聞の記事で知ったのだが、ここのススキの生育が悪化しているという。生育不良の原因は特定できていないらしいが、土壌の栄養不足が一因と見られていることから、ここを管理している曽爾村がこのススキの回復に着手し、初めて有機肥料の散布を行ったそうだ。以前からここのススキを観に行こうと思ってはいたのだが、奈良の南の宇陀郡にあり、かなり不便なために実現していなかった。

村役場によると、10年ほど前からススキの生育悪化が顕著になったという。全体的に背丈も密度も低くなったようだ。夏までは順調に育つが、秋には穂が少ないという現象も見られるとのことだ。特に昨年は夏の猛暑と台風の影響で生育不良が著しかったらしい。ススキ減少の原因として考えられているのは、観光客が歩き回り踏みつけること、土壌の栄養不足、獣害、ササの侵入など植生の変化、気候変動などだ。村では本年度、「曽爾高原再生プロジェクト」を開始したが、肥料の散布はその一環。今回の散布は斜面部の約5ヘクタールが対象で、無人ヘリコプターで有機肥料120袋(一袋20キロ)分を散布した。これから3年ほどかけて、無人ヘリと人力で高原全体に散布する計画を立てている。株の植え替えと合わせて、ススキの名所を再生させようとするものだ。

気になるのは、この生育悪化が10年ほど前から顕著になったということだ。その間に観光客がどれほど増加したかは示されていないが、隈無く踏みつけるほどの人数が訪れて歩き回っているとは思えない。茅葺き屋根の材料として採取されるのが大きく減少したことで、ススキの世代交代が進まなかったことも影響しているかも知れない。昔から笹の侵入などを見つけて取り除いていたはずだが、その人手もなくなっているのだろう。そして、さらに要因として気になるのが気候変動。この地域の気象データが揃っていることが必要だが、それがあれば、ここ20年ほどの気温、湿度、雨量、日照などについて、変化がどのようになっているかを調べれば分かるはずだ。奈良県にとっても貴重な観光資源だから、予算を準備して、学術的な調査をするべきではないだろうか。

奈良県公式観光案内の写真を拝借。

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■潮流発電

海に囲まれた島国であり、瀬戸内海という巨大な貯水池もあることから、日本の潮流発電の潜在量は大きいと思っていたのだが、これまで何回か書いたように、いろいろな場所で実証試験が行われてはいるが、なかなか普及の段階に入っていない。環境省は2018年に実用化するという目標を建てていたのだが、その目標達成は難しいのだろう。また、幾つも実証試験が行われてものが、現在どのような位置づけになっているかのレポートも出ているのか、出ていないのか、明確ではない。

設置場所によって設計条件が変わるために、いわば一品料理になってしまい、標準化による量産効果が出せないというのは理解できるが、日本での潜在量は大きいとされているだけに、早く実証試験から脱皮して潮流発電事業として登場してほしいと思っている。だが、最近報じられたものもやはり実証試験のようだ。これは、さる5月30日に環境省が発表した九電みらいが実施するもので、「長崎県五島市沖における潮流発電技術を実用化するための実証事業」だ。共同事業者は、長崎海洋産業クラスター形成推進協議会。公募要項によると、採択当初年度は原則9億円を上限として採択。実施期間は原則2019年度末まで。

この事業は、潮流発電の実証を通じて、国内の環境や技術基準等に適合した技術の確立を図り、日本における早期実用化を目指すもの。具体的には、潮流発電の分野で先行している欧州の発電機を採用し、国内初となる商用スケールで大規模なMW級(単機あたりでは世界最大級)の潮流発電の実証を行う。実施場所は、長崎県五島市沖奈留瀬戸海域。発電規模は、2MW潮流発電機1基。実施期間は2016年度~2019年度(予定)。また、2019年に実証運転を開始する予定となっている。この設備の大きさは、タービンの直径が16メーター、設備の高さは27メーターというから、船の航路を避ける必要はあるだろう。

干満は月の運行によって起こるから、潮流強度の予測はし易いし、潮流が止まって発電が停止するのは1日に2回だけとなるから、安定した電源となる。実証試験終了後早期に商用化が実現することを期待したい。

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この潮流発電機の仕様

 

■直流の利用拡大を可能にする新技術

エジソンが発電設備を開発したとき、それから出る電力は直流だった。そしてその電気は当初白熱電球を点灯するのに使われ、ローソクや灯油ランタンを駆逐することになる。だが、その後テスラが交流発電方式を開発し、交流の昇圧を可能にする変圧器が開発され、電力供給は次第に直流から交流に切り替わり、今では世界で使われているのは殆どが交流電力である。直流と交流のどちらが良いかについて当初論争があったが、直流を昇圧する技術がなかったために、遠距離に送電できず、昇圧して遠距離まで送電できる交流が世界の電力供給を支配してきた。

だが、送電するときの損失は直流の方が交流より少ないために、直流を昇圧、減圧する技術が開発されて後、遠距離送電には高圧直流が利用されるようになっていることは、これまでにも述べたことだ。だが、交流の利用が世界の隅々まで行き渡り、交流発電機が主流であるために、電池を利用した電気設備以外はまだ交流の世界となっている。だが、それを打破する可能性のある技術が最近開発された。その技術とは、スイス工科大学ローザンヌ校が発表した100kW規模の小型で高効率な半導体変圧器である。これくらいの規模の変圧器というと、身近にあるもので表現すれば、少し大型の柱上トランスに相当する。そして、直流(DC)、交流(AC)の両方に対応しており、入力・出力について、AC-AC, AC-DC, DC-DC, DC-ACの変圧ができ、発表の中に記述されているように、スイスのアーミーナイフのように万能なものだ。

この変圧器が商品化されると、これを並列に末端の変電所に設置し、そこから需要端に向かって出る現在6,600ボルトの交流電力を直流にし、建物などにまで届け、最終需要に向けて低圧直流に落とすことができるようになる。そうすると、太陽光発電燃料電池のように、本来的には直流を発電する電源の接続利用が非常にやりやすく、また、全体の効率も大きく上がることになる。この新技術が早期に商品化されることを期待しているが、それと同時に、直流を利用するための電圧やプラグ、スイッチ、交流供給との分離などに関する規格の標準化ができていなければならない。国際直流学会でこの標準化が進展しつつあるようだが、まだそれが最終規格の設定には到達していないらしい。

だが、直流の変圧がやりやすくなるとすれば、末端での電力消費効率やそこへ電気を届ける送電の損失も大きく下がることになる筈だから、規格の設定を急ぎ、直流送配電が基盤となる社会に変化するメリットは極めて大きい。直流利用の拡大に向けた施策が具体化することを期待している。

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© 2019 EPFL

 

■プラスチック・ゴミの処理

昨日のNHKテレビで、ある自治体のゴミ処理の現場を取材したレポートを見る機会があった。自治体によってゴミの分別はいろいろ異なっているようだが、自分の住む奈良市では、プラスチックごみと燃えるゴミの二種類に分けて曜日を変えて収集される。燃えるゴミには生ゴミや紙類の他に、残りかすなどが洗い落とせないプラスチックも入れてよいようだ。

テレビが写し出すゴミ処理の現場では、プラスチック類が扱われていたが、大量のプラスチックがベルトコンベアーに乗って出てくる。そのコンベアー添いに作業員が何人か立っていて、そのプラスチック類の中から何かを手で拾い出している。それは、トマトケチャップなどの入れ物であったプラスチック瓶で、まだ中身が残っていたり、十分洗い流されていないものなどが選別対象だった。また二重袋になっているものも拾い出されている。一定速度でコンベアーは動いているから、汚れたプラスチック容器などが固まって出た時などには、作業員が移動しながら拾い出している。いまでもこのような作業現場があること自体が驚きだったし、その反動として、自宅から持ち出しているプラスチックが十分洗浄されたものかどうか再確認する必要があると感じたのだった。

一方、画像認識などが進歩している今、まさに玉石混淆のゴミの分別を自動化することは出来ないのだろうかと思った。作業員の職場環境としては実に気の毒なものだし、人間の目に代わってセンサーで汚れプラスチックを判別するのはそれほど難しいことではなかろう。これから新設される設備がどのような仕様になっているのかも考えさせられた。生ゴミと燃えるゴミを分けている自治体もあるが、奈良市では一緒に収集される。そして、現時点では全て焼却されるのだが、燃えるゴミの水分を取り除くのに助燃剤として重油などを使っているはずだ。CO2の排出量も多くなるし、ゴミ発電も行われていないから、極めてエネルギー効率の低いゴミ処理となっている。

いま、プラスチックによる海洋汚染なども大きな問題になっているが、基本的に社会構造を組み直すような取り組みをしないと、多面的な汚染を防止することは出来ないだろう。そして、人間がゴミの選別をやる必要のない処理設備の開発を進めることも、人手が足りなくなっている日本では喫緊の課題ではないかと思う。生ゴミのメタンガス化も次第に進展しているようだが、この生ゴミも、この中に乾電池などが混入しているとガス化をするメタン菌が死んでしまってガス化ができなくなるから、このようなものの選別もできるような総合的対応が必要だと、このテレビ番組は教えてくれた。

 

■JR東日本が燃料電池列車の実証試験

昨日、JR東日本がニュースレターを出した。そのタイトルは、「水素をエネルギー源としたハイブリッド車両(燃料電池)試験車両製作と実証試験実施について」というもの。このブログでもこれまで3回燃料電池列車について書いているが、もっとも最近のものは昨年の10月4日。ドイツで2両編成の燃料電池駆動の列車が営業運転を世界で初めて開始したという内容だった。

JR東日本は、昨年8月にトヨタ自動車と水素を活用した包括的な業務連携に関する基本合意を締結しているが、これに基づいてトヨタ燃料電池技術について支援を受け、さらに、2019 年6 月3 日、日本貨物鉄道株式会社、昭和電工株式会社およびJR 東日本の3社で実証試験に伴う設備整備に関する基本合意を締結したということだ。だが、今回の発表では、営業運転ではなく実証試験であって、その終了は2021年度となっているから、営業運転はさらに先の話となる。世界の動向からはかなり遅れるというのは残念なことだ。実証試験では、鶴見線、南部線尻手支線、南部線(尻手~武蔵中原)を利用するそうだから、営業運転に沿ったものと言えるかも知れない。

燃料電池は固体高分子形(PEFC)180kW 2基。25kWhのリチウムイオン電池も2基。燃料である水素の充填最高圧力は7MPaで、欧州での3MPaより大きい。多分自動車用のタンクの応用で、炭素繊維複合容器になっている。水素貯蔵ユニットは51ℓ×5本×4ユニットで、列車の屋根上に置かれている。発表には詳しく書かれていないが、これが本格的に走り出すと大量の水素が必要になる。実証試験で、この水素をどこで入手、あるいは製造し、どこで充填するかも課題となる。

何はともあれ、開発の方向が示されたことに多少安堵した。

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発表された列車の仕様