我が家にはまだ2歳前後の猫が2匹いる。彼と彼女だ。朝食の準備にキッチンに入ると足下にすり寄ってきて餌をねだる。餌と同時に水も換えてやる。あまり音は立てないが、水を器用に飲む。米国のマサチューセッツ大学の研究によると、この飲み方が犬にように舌先を丸めて水をすくい取っているのではないそうだ。舌先を手前側にJの字形に丸めて水面に浸した後、素早く引き上げて細い水柱を作り、タイミング良く口を閉じて飲むことが分かったとある。猫10匹の実験結果では、舌先を水面から引き上げる速さは秒速78センチで、水柱にして飲める量は1回当たり0.14ミリリットル程度。1秒間に3.5回のハイピッチで舌先を水に浸していた。確かに犬の水飲みは派手な音が出るが、猫は静かだ。小さいから静かなのだと思っていたがそうではなさそうだ。
猫は舌にくっついた水を柱状にして引き上げる。その慣性力と、水が落ちようとする重力のバランスをうまくとっているのだ。柱状に引き上げられた水の塊が重さで落下するまでに口を閉じて柱をかみ切って水をキャッチして飲んでいることになる。トラやライオン、ジャガーなどネコ科計8種に共通して、この慣性力と重力の比率が1対1に近かった。大柄で舌が大きい種ほど、舌の動きのピッチが遅かった。研究チームは、舌先を模した小さなガラス円盤(直径2.5〜5ミリ)を水面に浸してから引き上げる実験も行い、水柱ができる様子を測定したという。
ガラス円盤の場合だと、ガラスと水の粘着力は素材で決まるから、引き上げる水柱の量は重力が一定で引き上げ速度も一定だとすれば、常に同じ量の水を切り取ることが可能になるはず。だとすると、微量の液体を精密に計りとることができることになる。少し大きな円盤を縦にして一定の速度で高速回転させ、それを液面に触れさせると、粘着度に応じて一定量を継続的に飛ばすことができるだろうとも思う。ポンプを使わないで定量を汲み取る精密機器ができるかもしれない。すでにそのようなものはあるのかもしれないが。